カデンツ
(過去に合唱団の新入生向けに書いたものを加筆修正しています。)

■カデンツとは何か

カデンツとは、和音(ドミソやファラド)同士の連結において模索された法則です。
曲の終止に向かう和音進行を最も簡単な進行としたもので、
練習では、和音を感じながら曲の終わりへの進行を意識して歌うような意味があります。


前回の和声法基礎2で学んだ和音におけるT、D、Sの組み合わせとなっています。
復習がてら、思い出してみましょう。

T(Tonic tried、T)・・・調を代表する安定した音。始まりや終止の和音(T)。
D(Dominant tried、X)・・・構成に属音と導音を含んでいるため、Tへ向かおうとする。(X)[緊張]
S(Subdominant tried、W)・・・和音に広がりを持たせる(W)。[発展]



○カデンツの基本的な形
・T→D→T
・T→S→D→T
・T→S→T


カデンツとは和音進行のことで、進行自体は幾つでもあります。
多くの合唱団で練習されている形はT→S→D→Tが多いと思います。

さて、ここからはカデンツの中身を理解する内容に入っていきます。


1.長調のカデンツ

まず私の合唱団が普段練習しているカデンツは以下のとおりです。
C dur

Sop:ドドドシド
Alt:ミファミレミ
Ten:ソラソソソ
Bass:ドファソソド



さて、これに和音の度数(数字)を書いていきます。
ぜひみなさんも考えてみてください。
下部分に度数を入れる解説を書いてあります。

[解説]
1番目はSopからド、ミ、ソ、ド。つまりドミソの形なのでT。ここでTはTonicなのでTを書きます。
2番目はSopからド、ファ、ラ、ファ。つまりファラドの形なのでW。ここでWはSなのでSを書きます。
3番目はSopからド、ミ、ソ、ソ。つまりドミソの形なのでT。T(2)となっているのは後ほど解説します。
4番目はSopからシ、レ、ソ、ソ。つまりソシレの形なのでX。ここで3番目と4番目を合わせてDとします。
                 【このT(2)→XがDというのは法則です。そういうものだと割り切りましょう】
5番目はSopからド、ミ、ソ、ド。つまりドミソの形なのでT。ここでTはTonicなのでTと書きます。


○転回和音
ここで、I(2)と書いてあるのはなんなんだ!?ってなりますよね。
これはドミソ、Tの和音です。それはあっています。ではなぜ(2)なんて書いてあるのでしょう?
それは、Bassの音に注目です。
BassはI(2)以外は、どれもその和音の根音(一番下の音。Tならド、Wならファ)を歌っているのですが、ここではドではなくてソを歌っています。この違いです。

合唱曲でよくBassって跳躍(音の飛び幅が大きい)が多いパートですが、これは
「和音の根音は一番音が低いパートが歌う」
という原則があるからです。
なぜなら、最低音が根音でないと響きに不協和音に似た不安定さが出てしまうのです。
だからT→W→Tっていう流れをベースが歌うなら根音を歌わなければならない原則からド→ファ→ドとなって、
他パートよりも音の飛びが大きくなってしまうのです。


この原則を破って(というのは言い過ぎかもしれませんが・・・笑)、一番低い音を歌うパートが根音を歌わないことを転回和音といいます。

第三音が根音になるのを第一転回形(右上に1)
第五音が根音になるのを第二転回形(右上に2)

といいます。
普通よりも第一転回が、第一転回よりも第二転回が不安定さが出ます。

まとめると、このカデンツの流れは、

1音目で主和音(始まり)
2音目で広がりを持たせて
3、4音目で緊張を持たせて
5音目で主和音で終わる

T→S→D→T進行

といった流れになります。
これで、終止に向けた流れを理解できたと思います。


2.短調のカデンツ
先程は長調ですが、短調の例も上げます。
c moll

最後までの基本的な進行は1の例と同じです。
最後はc moll(ハ短調)から最後にC dur(ハ長調)に転調して終わる形で、
短調曲のラストなどでよくあります(ピカルディの三度といいます)。

これは、短和音は終止形でないという考えがあったため、
このような第三音(この譜面ではEの音)を半音上げて終止としています。
基本的にずっと短調で進んできた音楽が長調で終わることによって、明るく豪華に響く音となっています。

練習では、この短調-長調の違いをしっかり感じることが大切です。
ピカルディの三度では第三音以外のパート(この譜面ではSop、Ten、Bass)は動きがありませんが、
長調に転調するのを感じ、雰囲気を変えると全体の音色が綺麗になると思います。


3.練習におけるカデンツ

多くの合唱団でカデンツを練習していると思います。実際にいくつかの団体でのカデンツ練習風景を見たことがあります。
しかし、うまいカデンツの練習をできている合唱団は全くありませんでした。
ここで、カデンツの練習意義を見直してみましょう。
あ、僕は指揮者でもパートリーダーでもなかったので、あまり参考にならないかもしれません・・(笑)。

カデンツ練習の意義
(1)他パートとのハモリを感じる(きれいなハーモニーを作る)。
(2)終止への流れを感じ、古典音楽の終止を理解する。
(3)長調、短調の質の違いを理解する。

ここで、1番についてばっかり取り組んで、せっかくのカデンツ(終止形)の練習を殺していることを日頃感じます。
ハモリを感じるだけなら他の音でも、言ってしまえば発生練習中にてできるのだから・・・

以降は上記1〜3について自分の考える練習への意識などを書きたいと思っています。



(1)他パートとのハモリを感じる(きれいなハーモニーを作る)※全体向け

まずカデンツは和音進行の形ですが、「曲」であると思って他パートと音をよーく聞き合いましょう
それが基本で、自分のペースで自分のパートだけを意識して歌ってしまうようではきれいなハーモニーを作れません。

また、和声の知識がここで必要になってきます。
和音の中でのそれぞれの音に役割がありますたよね(和声法基礎2)。思い出してみましょう。

根音・・・和音の性質を決める上で最も重要な音
三音・・・和音に明暗の表情を加える音
五音・・・根音を補助する音

カデンツを歌う中で気をつけるところは、

根音:しっかり出す。
第三音:(長調の場合)明るい和音になるので、明るい声質で歌う。強すぎるとくどくなる。
第五音:根音をしっかり聞き、和声の調子を整える。明るめな声質で歌う。

といったところでしょうか。

実際に自分のパートが和音の中のどこを歌っているか、確認してみましょう。
ここで、根音を赤第3音を緑第5音を青で長調のカデンツに色塗りしてみると・・・?


Bassは基本的に根音を歌うので赤が多いですが、他パートでは音によって和音の働きが違うことがよくわかりますね!
Tenorならソラソソソといった簡単な音形ですが、役割を見てみると
第5音−第3音−第5音−根音−第5音
とそれぞれ違った役割を持っています。

例えばSopの4つめの音、第三音のシは導音で、ド(主音)に向かうとても強い性格があります。
なので、この音をSopがうるさく歌うと、Vの和音が崩れてしまいます。
このようにそれぞれの音には特徴、役割などがあるため、頭の片隅で理解しつつ歌う必要があります。

そうすれば単純な音形でも合わせようとする気持ちも高くなりますし、
和音にふさわしい声を出せると思います。

これは一人ひとりが気をつけなければならない、いわば最初の段階です。
音を辿るだけの練習は絶対に役に立ちません。


(2)終止への流れを感じ、古典音楽の終止を理解する。※練習組み立てる人向け

(1)で自分の歌うパートのそれぞれの音の役割などを理解して、他パートとも聞き合えるようになったと思います。
しかしそれはどんな発声練習でもできることで、わざわざカデンツでやる意味があるかといえば疑問です。
初心に帰ってみましょう。カデンツとはなんでしょうか?
そう、終止形です。

これは曲の終止である!ということを意識して練習することが大切です。
これは意識の問題なので、なかなか難しいところはありますが、おすすめな練習方法があります。
それは「歌詞をつけてみる」です。
歌詞はなんでもいいですよ!
試しに「Kyrie eleison」と歌ってみましょう。足りない部分は適当なリズムを付けてみればOK。




どうでしょう、最初のリズムを揺らして言葉を付けたら一気に曲っぽくなっていますよね。
この例は僕が適当に考えたものなので、団体それぞれ違っていて良いと思います(むしろ、その団でなじみのある
ほうが曲を意識しやすいです!)。


もうひとつ。
これは完全に練習を組み立てる人向けなのですが、
「カデンツの練習で手を叩かない。適当な指揮をしない。」
これにつきます。
せっかく(どんな方法であれ)曲を意識できてきたのに、指揮者が手を叩いてリズムをとったり、適当な指揮をしたらどうでしょう?
コンクールで手を叩いて指揮する人はいませんよね。それと一緒です。
指揮者が何よりも曲と理解して、曲の終止を出すために本気で指揮をしてください。特に最後の伸ばしを!
逆にこれさえできていれば、団員もカデンツが終止であることをいやでも意識できると思います。




(3)長調、短調の質の違いを理解する。※全体向け
1〜2を実戦するとカデンツのクオリティが一気に上がり、自然とよりきれいなメロディーができると思います。
長調のカデンツに慣れてきたら、短調のカデンツにも手をだして、「長調短調の質の違い」を出しましょう。

長調ってどんな感じ?
短調ってどんな感じ?

それを意識しながら曲の終止として(しかも短調のカデンツはピカルディの3度によって長調で終わるので、より質の違いを理解しやすいです)
練習すると、和音作りにおける声質の変化などをより上手くすることが出来ると思います。

これはどんどん数をこなして、理論よりも実戦で変化を覚えると良いと思います。


最後にまとめると、

■練習におけるカデンツの意識
カデンツは曲の終止形であることを意識する
 →音を辿るだけの練習にしない
「曲」であることを考え、他パートとの和音を聞き合う
 →和音を理解するのが好ましい


となります。
カデンツをうまく練習できるということは、実際の曲を歌うときに必ず生きてくると思っています。
ぜひ、有意義な練習を組み立ててください!




Back